■ 明細書マニュアル
◆ クレーム
クレームでは最小限の言葉で無形思想を記述し、理想的な権利の確保を目指します。
数ある特許業務の中で、クレームドラフティングは最も重要な業務です。発明者が開発した発明の本質。それに価値を与える唯一の場所がクレームです。
ところが、発明の本質は無形の思想であるため、発明を表現するための切り口は無数にあります。クレームドラフトの過程では、その表現が本当にベストなのか、無用な限定はしていないのか、表現を変えるとより有効な権利をとれるのではないか、常に熟慮し細心の注意を払って執筆を進めます。
たった一つの言葉によって被疑侵害品がクレームの権利範囲外になることもある。また、同じ無形思想でも表現次第で侵害品特定の容易さが大きく違ってくる。言葉には、無形思想の価値を左右する大きな力があります。私たちは言葉を扱う者としての責任を感じると同時に、言葉に大きな力を与える立場でいられることに喜びを感じながらクレームを作成しています。
わずかなクレームの文言で無形思想に理想の形を与える。この困難な作業の先にある達成感が、私たちの業務の醍醐味です。
- 技術思想を表現する (
マークをクリックすると展開します)
- 技術思想(発明)を目的、構成、効果で捉え、請求項には構成を記述する
- 従属項を含む総ての請求項について効果を特定し、各効果を記述するための構成を特定して請求項を構築する
- 目的
- 出願段階においては、「発明者(出願人)が主張する目的」と「引例と対比した結果導かれる目的」とがある。発明者の主張する目的がストーリーとして美しくても引例を克服できなければ特許にならない。従って、引例と対比した目的を把握し、引例克服に寄与する目的であること(目的に対応する構成に新規性・進歩性があること)は必須。引例克服に加え、発明者の意図に沿った目的であることがベター。中間段階では発明者の主張していた目的や開発過程での思索が進歩性獲得のためのキーとなることが多々あるため、インタビューでは目的、思索を聞き出して有用な事項は明細書に記載する。
- 効果
- 効果は目的の裏返しであるが、クレーム毎に目的を整理するよりクレーム毎に効果をチェックした方が文章を緻密にチェックしやすい。従って、上述のような引例克服性を考えるときには効果を考えた方がよい
- 構成
- 構成の典型的記述方法
- 発明の必須要素
- 構成要件名
- 物の発明:××手段、××部
- 方法発明:××工程
- プログラム発明:××機能
- 構成要件の名称から容易に意味を把握できる場合、構成要件の名称は権利範囲を左右するので無用な限定は避ける(「××の弾性体と」>「××のバネと」)
- 構成要件の名称から意味を把握できない場合、構成要件の詳細は各構成要件を説明する節の語句(あるいは明細書の定義)で決定される。従って、この場合に構成要件の名称はさほど重要ではないが、原則として、構成要件の機能を類推できるように、かつ、無用な限定をしないように名称を決定する(××情報送信手段等)。もちろん技術的、辞書的に誤りのある名称はNG
- 似たような要件を別構成要件とする場合、同じ構成要件名としてはいけない。別の名称を付けづらい場合には、第1××手段、第2××手段などとする。
- 構成要件
- 請求項に記述された発明を構成する主要な構造、工程、部分、機能が各構成要件となる
- 発明(装置や方法)が扱う物(workpiece)は構成要件ではない (例:制御系発明での処理対象データや製造方法発明での原料)
- 構成要件の特徴
- 構成要件が「何であるのか」を説明することによって特徴を記述する
- 特徴の例(装置)
- 構成要件を構成する部分および部分同士の関連
- 特徴部分の構造
- 特徴部分や構成要件の大きさ、形状
- 素材
- 構成要件の論理的順序
- 作用(action)の順序に従って構成要件を記載し、発明における最終的な動作を行うために本質的な構成要件で終了すること(構成要件A,B,C,Dとあるときに、AとCが作用的に関連し、BとDが作用的に関連すると読みづらい)。
- 段階論法を原則とすること。構成要件A,B,C,Dが、AだからB、BだからC、CだからD(→従って発明の効果を奏する)という流れになっている。
- _
- 例1.”機能的”順序で列挙する
- 発明が扱う物品(workpiece)に関連する構成要件を最初に書き、当該物品に対する機能、作用の連鎖を想定し、その連鎖の順に従って残りの構成要件を順に説明する(例:物品を受ける容器と、前記容器に対して回転可能に取り付けられた支持部と、前記支持部を回転可能に支持する台と、前記台に対して取り付けられるとともに前記支持部に対して回転駆動力を作用させる手段と、、、、)
- 例2.”構造的”順序で列挙する
- 基部や電源など構造上の核になる部分から記載を開始し、構造的な結合に沿って(配置の順に)残りの構成要件を順に説明する(例:台と、前記台に対して回転可能に取り付けられる支持部と、前記支持部に取り付けられる容器と、前記台に対して取り付けられて前記支持部に対して回転駆動力を作用させる手段と、、、、)
- プログラム発明の構成要件の記載順序
- 制御処理全体を、入力工程、処理工程、出力工程で解析し、入力、処理、出力の順に記載する
- 構成要件の有機的結合
- 有機的結合とは
- 構造的、物理的、機能的に他の構成要件と協働することを示す記述(引用と言っても良い)
- 典型例:部材同士の連結位置(Aの端部に連結されるB)、連結の結果生まれる動作(Aに対して回転可能に連結されるB)、電気的接続(A素子に接続されるB)、部材間の位置(Aの間に形成されるB)、機能的記載(AをCに対して振動させるB)
- 機能的記載
- 構成要件が「何であるのか」ではなく「何をするのか」を特定するのが機能的記載である。
- 客観的な構成を伴わない機能は不明瞭となることが多い。そこで、記述の客観構成を引用しながら機能的記載を行うのが通常である(例:前記溝の内側で前記溝に沿って前記Aを往復運動させるB手段)
- 但し、過度に広い文言となる場合(審査基準Ⅰ部1章2.2.1.1(3))が多いので、重要な構成要件であれば明細書内に以下を必ず記述すること。
- 1.構成要件に記述された文言から効果を説明できること(記載要件充足)
- 2.沢山の例示を記述すること(権利範囲コントロール)
- 3.中間概念を書いておくこと(将来の補正に対する備え)
- 米国では機能+手段(means + functionまたはsteps + function)でかかれた構成要件に関して特殊な解釈をする。→機能+手段でクレームされた範囲は明細書の実施例と当該実施例の均等物に限定される。従って、米国に出願することが明らかである案件は、できるだけ機能+手段を避けること。
- 構成は明瞭に記述する
- 構成は客観的に表現する
- 客観構成とは「何であるか」を記述した文章である。「何をするのか」を記述する機能的記載も許されるが、主観的/不明瞭になりがちなので原則として客観構成の記述を試みる
- 請求項では客観的に明確な構成を列挙する←文書解釈によって文言で特定される範囲や概念が変わってしまう表現は主観的であり許されない。
- 日本は周辺限定主義であり、出願人自らが権利範囲の境界線を規定(周辺を限定)する必要がある
- 否定的表現は原則として使わない
- 請求項が不明瞭にならなければ否定的表現を使っても良い(審査基準第Ⅰ部第1章2.2.2.1(5))。しかし、否定的表現を使わなければならないケースは希(特に電気電子、機械等)なので原則として使わない
- 「除くクレーム」は、除外した後の「除くクレーム」が当初明細書等に記載した事項の範囲内のものである場合には、許される(審査基準第Ⅲ部第Ⅰ節4.2(4))。但し、除くクレームで包含される概念は極めて広いため明細書が請求項をサポートしていない可能性は常に高い。
- 米国明細書に関し、否定形の限定があること≠クレームが不明瞭(MPEP2173.05(i))
- 構成要件に対応する物や工程は必ず明細書および図面で詳細に説明する。請求項の言葉のみから明確にその内容を把握できる場合を除き、請求項に対応する物や工程が明細書および図面に記述されていない請求項は不明瞭である
- 代名詞は不明瞭になるので使わない。冗長でも前記××とする
- 相対性の記述
- 大きい、小さい、前、後など相対性を記述する場合、基準を示さなければ不明瞭である(審査基準第Ⅰ部第1章2.2.2.1(5))。但し、物の位置や色など絶対的、定量的な記述をすると極めて権利が狭くなるケースは多々ある。従って、不明瞭とならないようにケアすれば相対性の記述は有用である。
- 「所定の基準より大きい」等の限定は、相対性の記述に発明のキモがある場合意味がない(所定の基準を変えれば総ての状態を含んでしまう)。「所定の基準より」を使っていいのは、単に基準が決まっていればよいというケースあるいは所定の基準についての限定を含む場合のみ。
- 基準を規定することなく特許になり、有効と認定されたケースもある。
- 東京高裁平成13年(行ケ)586:生海苔の異物分離装置事件-「僅かなクリアランス」という記載は36条違反でないとされた。裁判所の判断:異物の分離除去ができるようなクリアランスの大きさは、海苔の量、異物の種類、遠心分離の回転速度等によって異なり、具体的数値をもって特定しがたいし、具体的数値で特定することが適切であるともいえない。この場合、明細書の記載および効果の記載でクリアランスがおよそどの程度か特定されていればよい。(ただし、発明のポイントに「僅かな」を記述するのはやはり推奨されない)
- 「所定の」
- と言う文言もできるだけ避ける。「所定の」を使わなければ規定できない場合、顧客が望むときに限り使用する。但し、使用する場合であっても、明細書内では「所定の」××であることによって得られる効果を必ず規定する。
- または/および
- 必須構成要素が「または」「および」のいずれであるのかは常に意識して書かなければならない
- 異なる構成要件を「または」で結ぶと不明瞭とされるおそれがある→類似の構成要件を「または」で結ぶのはOK(MPEP706.03(d))(異なる構成要件を「または」で結んだ場合、必須要素であるか否かが不明瞭となる)
- 米国では「または」というクレーム内の文言が「および」を排除する意味に解釈されることがある。「および」を確実に含めたいのであれば、「AとBとのいずれかまたは双方」とする(但し、日本のクライアントには好まれないことが多い)。
- 文書解釈によって文言で特定される範囲や概念が変わってしまう表現は不明瞭でありNG
- 例)画像が明るくなるように処理をする←「明るい」が主観的。例えば、もとの画像よりも明るくなるのかダイナミックレンジ内で中央値よりも高明度側になるように処理するのか不明
- 周辺限定主義
- なので、あいまいな表現でクレームして広い権利にしてあげたと思ってはいけない
- あいまいな表現が避けられない場合、あいまいな文言は明細書内で必ず定義する
- 当業者がその発明の効果を把握でき、その効果を奏するために必要な構成を想像することができるように書いておく(裁判所は明細書記載の効果を奏するものとして文言を解釈する←裁判所は請求項の文言解釈のために明細書、特に効果を参照する。そこで、所望の効果を奏する構成であると解釈されるように明細書を構築する
- 不明瞭性回避のアイディア集
- 1.比較の基準を提示(例:もとの画像より明るい)
- 2.定量的な特定(例:明度x以上y以下に補正する)
- 3.作用的記載(例:局所的な階調値のレンジを拡大するように補正する)
- 穴
- は構成要件ではない。従って、「・・・穴と、・・・手段とを備える××装置」はNG。「・・・穴を備える△△手段と、」などとする。「溝、開口」なども同様。要するに部材の形状は構成要件ではなく構成要件の特徴である。
◆ クレームサポート
明細書のすべてはクレームをサポートするためにあります。
発明は発明者が創造した無形思想ですが、執筆者は自らの創造性を発揮してその無形思想をクレーム化します。ところが、クレームで確保される権利範囲がクレーム表現のみから明確に確定できるケースは少なく、ほとんどの場合、権利範囲を特定するために明細書が参酌されます。従って、クレームによって特定される権利範囲を意図通りにコントロールできるように明細書を執筆して初めて明細書執筆者の仕事が完成します。
例えば、実施例より広いクレームとしたときには、その表現で規定される権利範囲を確実に確保するため、実施例より広いクレームの構成で課題に対応した効果が得られることを確実に説明しておく必要があります。他にも、補正容易性、クライアントの要望、権利範囲のコントロール、ライセンス交渉を有利に進めるための仕込みなど、多面的な配慮をしながら一つ一つのクレーム表現に対して地道にクレームサポートを構築します。
クレームサポートの構築は非常に地味な作業です。しかし、クレームよりも表現の自由度は高く、執筆者の創造性を最も反映させやすい場面といえます。私たちは、創造性を発揮するこの作業に誇りを持って取り組んでいます。皆さん、誇りを持って仕事していますか?誇りを持って仕事をしたい方。KPにはあなたの居場所があります。
- 権利範囲をコントロールする(執筆中)
- 新規性・進歩性
- カテゴリを決定する
- 文言を選択する
- 水平/垂直展開する
- Open End と Close End
- 独立項と従属項
ページトップへ